漁業支援のためのMODIS観測データと補助データ


            浅沼 市男(東京情報大学)
                                                東京農業大学 谷口旭、塩本明弘、西野康人、朝隈康司

1 .はじめに
  MODISによる海洋の観測データとして、海表面温度、クロロフィル-a濃度分布データについて、本学のWEB(http://e-asia2.tuis.ac.jp)を通して各方面へ提供してきた。しかし、雲の存在により、観測の困難なことが多いことから、5日間合成などの期間合成により観測頻度の向上に努めてきたが、常に衛星を見ている漁業関係者からは、さらなる観測データの提供が求められていた。ここでは、宮古島漁業組合を対象に提供中のMODIS観測の海表面温度、クロロフィル-a濃度分布と、JASON-2観測の海面高度変異データについて概説する。
2. 海表面温度とクロロフィル-a濃度分布図
    図1-aと1-bは、それぞれ、2011年8月29日から9月2日の期間合成の海表面温度分布図とクロロフィル-a濃度分布図である。 海表面温度は、熱赤外波長帯域により観測される海面のごく表面の水温であり、非線形海表面温度(NLSST)の経験式により大気補正を施したデータである。ここでは、雲の影響と走査角による温度差の影響を削減するため、5日間の最大値を求めた。夏季の時期は、海水温度が昇温し、表層成層状態となり、黒潮と周辺水塊との温度差の観察が困難となる。図1-aによると、台湾東方沖合に海表面温度が31℃近くの水塊が認められるが、黒潮の流れとして判読することが困難である。また、この期間は、台風11号が台湾を北西方向へ縦断し、台湾海峡から中国大陸へ移動した時期であり、台湾西方の台湾海峡では台風による鉛直混合により海水温度が低下したと考えられる。宮古島周辺では、海水温度が昇温し、水塊分布を判読することは困難である。 クロロフィル-a濃度は、植物プランクトンに含まれるクロロフィル-a(葉緑素)濃度であり、植物プランクトンの種に関わらず、植物プランクトンの総量を示す値として利用されている。ここでは、可視波長帯域の観測データに大気補正を施し、経験式により求めたクロロフィル-a濃度について、5日間の平均値を求めた。また、0.01~10.0mg/m3の濃度範囲を対数表示により与え、クロロフィル-a濃度の低い範囲から高い範囲までの変化を観察可能とした分布図である。灰色の部分は、5日間の平均値によっても海面が観察できなかった海域であり、現在のクロロフィル-a濃度推定手法の限界である。雲の合間からかろうじて、与那国島海峡(台湾の東側の海峡)から東シナ海へ入り、西表島と石垣島の北側を流れるクロロフィル-a濃度の低い黒潮の流れを観察することができる。宮古島周辺は雲に覆われ、水塊分布を観察することができない。
図1-a 2011年8月29日~9月2日   図1-b 2011年8月29日~9月2日
    期間合成海表面温度分布図     期間合成クロロフィル-a濃度分布図
3. 海面高度変異分布
MODISによる海表面温度とクロロフィル-a濃度分布図において、雲のため観測の困難な海域に対して、各種のマイクロ波波長帯域の観測データの利用可能性がありうるが、空間解像度、観測頻度等に難点があり、必ずしも熱赤外あるいは可視光観測を補間するものが少ない。ここでは、米国と仏国の共同プロジェクトである海表面高度ミッション(OSTM/JASON-2)のPoseidon-3マイクロ波高度計により与えられる海面高度変異(アノマリ)データを利用し、平均海面からの変異成分を可視化している。 海面高度計は、10日間周期で全球をカバーするため、リアルタイムの海面高度を観測することは困難であり、10日間の期間合成データとなる。空間解像度については、進行方向に11.2km、走査方向に5.1kmであり、MODISと比較すると、より低解像度である。OSTM/JASON-2により与えられる各種成果物のデータは複数のサイトから利用可能である。ここでは、米国NOAAの国立海洋データセンター(NODC)のFTPサイト(ftp.nodc.noaa.gov)から2~3時間遅れで配信される海洋地球物理量記録データ(OGDR)の海面高度変異データ(ssha)をダウンロードしている。海面高度変異データは、平均海面からの変異量であり、高度(m)により与えられる。海面高度変異データは、10日間のサイクルごとに一つのフォルダにまとめられ、フォルダには1日当たり10~12周回の周回ごとのファイルが存在する。 ダウンロードした海面高度変異データの可視化には、データ読み取りソフトウエアであるベーシック・レーダー・アルチメトリ・ツールボックス(BRAT)を利用する。BRATは以下のサイト(http://earth.eo.esa.int/brat)からダウンロード可能である。BRATには利用手引きがPDFファイルで提供されるが、プログラムが独自の構成となっており、理解が困難な点がある。基本的な流れは、①データセットとして可視化するサイクルのデータセットフォルダを作成し、ダウンロードした海面高度変異データを選択的に追加する。②オペレーションとして、経度と緯度に対して可視化する変数(ssha)を選択し、欠測画素への外挿を設定し、実行する。③画像表示として、表示海域と海面高度変異のレンジを設定する。 この結果、図2のような画像が表示される。赤い海域が平均海面より0.5m高く、空色の海域が平均海面前後と判読できる。
4. 海面高度変異の解釈
海面高度変異データは、10日間の合成画像であるため、海面高度を決定する潮汐、黒潮などの潮流、気圧配置の影響が複雑に含まれ、その貢献度の解釈も難しい、また、海面高度の持続期間についても、前後の10日間の海面高度変異の分布を考慮し、要因とともに説明する必要があり、簡単な説明ができない。 図3は、低気圧と高気圧のもとでの水塊の構造を示した概念図である。低気圧下では、低気圧への吹込みの風があるため、吹込み風の進行方向に対して右側へ海水が押し流されるエクマン流が発達する。このため、低気圧下では、水塊が発散する流れとなり、結果として表層混合層が浅くなり、温度躍層が上昇する。台風が接近した場合、台風の目付近では海面が低くなるが、周辺において海面が高くなる。これに対して、高気圧下では、高気圧からの吹出し風があるため、吹出し風の進行方向に対して右側へ海水が押し流されるエクマン流が発達する。このため、高気圧下では、水塊が収束する流れとなり、結果として表層混合層が深くなり、温度躍層が降下する。 図3は、水塊が渦を構成する場合の説明図であるが、海面高度変異データの解釈においても、水塊の鉛直構造については同様の説明が可能である。漁業実績との照合が必要であるが、海面高度変異データにより表層混合の深さが変動し、温度躍層付近の漁業資源の深さも変動すると考えられる。今後、衛星データの利用実績との照合を進めたい。

図3 低気圧と高気圧下において、風により形成されるエクマン流とそれにともなう水塊構造の説明概念図