経済・社会環境グループの活動結果



グループリーダー  武井 敦夫


  研究成果は実用性を優先することとし、学術的な観点から本研究グループは、東京情報大学の衛星リモートセンシング技術と研究グループの人的ネットワークを最大限に活用し、発展途上国に対する農業、環境、社会、経済などの分析支援を行うことを研究目的として、5年間弱の研究を実施してきた。評価を得ることを第一の目標とするのではなく、実現可能性を研究開発の目標と定めた。また、東京情報大学の衛星リモートセンシング技術の広報活動に寄与することもあわせて目的として活動した。  研究対象を観測範囲である東アジア東岸域とし、同地域の自然環境の変化が経済社会環境に及ぼす影響を考察した。「鳥の目」である衛星リモートセンシングから得られる情報と「虫の目」である現地調査から得られる情報を結び付けることは、かなり難しいものであった。本グループの取り扱う経済社会分野は多岐に亘るが、最終的に農業、特にコメに焦点を当てて研究を進めた。地域についても、最終的にベトナムおよび韓国における研究が中心になった。また経済社会分野の特徴として、情報のタイムラグおよび正確性に着目して研究を進めた。

正準判別関数により自動分類した稲作圃場 (ベトナム)

地元農家への集団聞き取り調査(フィリピン)


● 衛星技術との関わり


  現地情報を適切に組み合わせることによって、さらに精度を高めて実用のための価値を高めることができる。経済社会分野の主要な研究対象となる範囲と比べて、一般に衛星技術は大規模である。また精度の面についてはわれわれの要望する水準が必ずしも得られないこともある。どの程度の範囲で活用するか、その程度の精度を求めるかなどについて適切に判断し、衛星技術の活用について検討することは、将来的に意義のある事である。

● 経済社会分析との関わり



  東京情報大学の衛星リモートセンシング技術の活用について、農業分野への活用を検討してきた。衛星技術を産業と結び付ける場合に重要な視点として、経済価値の創出が考えられる。情報全般に言えることだが、情報から実際に経済価値を生み出すことは難しい。衛星技術の活用について言えば、大規模な技術の整備は大きなコストを伴う。また情報の消費者の立場で考えても、極端に利用価格が高いと衛星画像は使えない。そのため得られる便益との関係で経済価値が創出できない場合もある。特に民間企業や民間組織で活用する場合、事業が成り立たなくなるため、経済価値を創出できないことは致命的である。 地理情報の整備と同様に国家が衛星情報を整備し、公的な衛星画像を適切な価格で利用することが可能であれば、マクロレベルの衛星画像活用の可能性はかなり高まると考えられる。これに対して民間企業や民間組織などのミクロレベルについて、衛星画像活用の可能性は将来的な検討課題である。つまり事業の視点から考えた場合、衛星画像を使用することによって、既存産業の効率化を図ることができる。あるいは衛星画像を使用して新規産業を育成することができる。こうした可能性とこれからの衛星技術の進展に着目して、小規模であってもさまざまな場面で利用を考えることになる。  例えばわれわれは営農効率化について考慮し、これまで航空写真を使用してきた圃場の測定を衛星画像に切り替えることによって、これまでよりも安価に実施することができることを確認している。また生育状況を把握し、衛星画像を用いた肥料散布などが可能であるか試行している。これは既存産業の効率化である。

営農集団における衛星データ利用(北海道)


● 研究基盤形成の展開

  われわれの研究ではアジア東岸域および東南域にわたる広範囲の衛星画像を用い、経済的な結び付きも巨大なアジア経済を背景に広範囲にわたっている。そのため今回の戦略研究では、これらの地域における研究基盤づくりが最も重要であり、研究パートナーの発見と関係醸成は真に重要であった。衛星観測範囲に絞って、農業特にコメを対象として研究を展開してきた。衛星技術の活用と経済社会価値の創造による継続的な事業の追求を考えてきた。これによって小規模ながら将来につながる研究基盤の基礎を形成することができたと思う。また学術活動を中核とする大学という組織において、東京情報大学の求める新しい実学を考えるための端緒となったと考える。 戦略的研究基盤形成支援事業においては、衛星技術を中核とした、東アジアおよび東南アジアにおける共同研究基盤の形成と継続的な関係の定着が重要である。そしてこうした共同研究基盤を通じて、衛星技術を活用し、東アジアおよび東南アジアの経済社会の発展を支援することが可能になると考えられる。さらにこれからの衛星技術の発展によって、経済社会分野における活用の可能性が高まることから、人的交流を通じた経済社会の成長がもたらされ、わが国が明るい未来を切り拓くことができると信じている。