フィリピンの稲作を調査して



経済・社会グループ 井形雅代


  2011年5月21日から28日のあいだフィリピン出張の機会を得た。前年度の東京情報大学武井教授の訪問によって、ミンドロ島カラパン市Biga地区が調査地として選定されていたため、今回の出張ではミンドロ島での調査を中心に、アジアモデルの確立に寄与すると思われるデータをできるだけ多くの収集することを心がけた。  フィリピンは、気候的には稲作には適するものの、大規模な稲作が展開できるようなデルタには恵まれておらず、米の自給率は80%程度となっており、不足分はベトナム等からの輸入でまかなっている。他の穀物類と比較すると、米は生産量に対する貿易量の割合が小さく、また、バイオ燃料の生産拡大により穀物需給が逼迫するなか、米の消費国での自給達成は農政の重要な課題のひとつであることが指摘されている。
  フィリピンの稲作は、フィリピンで最大の島であり、また、マニラ首都圏も位置するルソン島で最も発達し、灌漑などのインフラの整備も進んでいる。調査地として選定したミンドロ島は、ルソン島南端から高速船で約1時間、フィリピンの7,000以上あるとされる島の中では7番目の大きさ(1万245km2)で、海岸線に沿って市街地や農地が開発され、島の中央部の山岳部には少数民族が住む。ミンドロ島は2つの州からなり、調査地のカラパン市は東ミンドロ州に位置する。東ミンドロ州は島の北側・東側を占める。州の総面積は4,365km2で、このうち、49%を森林が占める。2009年の人口は75万人余り、人口の約16%が州都であるカラパン市に集中する。カラパン市はフィリピンを南北縦断する交通の要衝ともなっている。2009年の稲作延べ面積(雨季・乾季合計)は111,679.0ha、米の生産量は43万トン、平均収量は1ha当たり3.82トン(雨季4.31トン、乾季3.30トン)であった。他の部門としては、とうもろこし、野菜、果実、ココナツ、畜産などがある。  稲作に関しては、ルソン島ほど大規模な経営は展開できないが、水田は比較的平坦な海岸地域に展開されており、灌漑の整備率も高く、稲作の条件としては恵まれている。また米の品質は比較的優良とされ、ルソン島南部の重要港であるバタンガス港まではわずかな距離で、米のマニラ首都圏方面へのコメの移出に関しても好条件にあるといえる。
今回調査したBiga地区は、カラパン市のなかでも平坦で稲作に適しており、水田面積は約500haである。今回の訪問においても、知事、市長、また農業長を表敬訪問することができ、調査への協力を了解いただいた。また、県庁、市役所において、地域農業の一般的な資料を入手したとともに、Biga地区の農家の数戸に集合してもらい、地域の一般的な作付体系に関する聞き取り調査を実施した。さらに、Biga地区の一部の農家(水田面積合計で約100ha)に関して、さらに農家調査を実施させてもらうこととなった。

地元農家への集団聞き取り調査を行うUPLBのLoida Mojica先生


  一方、米の流通に関しては、National Federation of Agriculture(NFA)、Plant Quarantine Serviceおよび集出荷業者を訪問することで、東ミンドロ州におけるおおよその集荷、流通形態および移出量を把握することができた。

  今後はBiga地区での農家調査の準備を進めるとともに、Biga地区の衛星情報を収集し、Biga地区の農業の変遷と農家経済の変遷を地上と衛星の両面から検討する予定である。