情報基盤研究グループ(IIRG)研究状況



東京情報大学 布広 永示, マッキン ケネスジェームズ,朴 鍾杰,松下 孝太郎,山口 崇志 浅沼 市男,原 慶太郎
日本大学 五十嵐 正夫,柳澤 幸雄

1.はじめに



情報基盤研究グループでは,広域衛星データ(NOAA, MODISデータ)を利用するための情報基盤である衛星画像解析システムの開発・MODISデータ配信や土地被覆変化の抽出,NDVI の時系列変化など,MODIS /NOAA衛星データの数理情報解析に関する研究を進めている。本報告では,「時系列衛星データを用いた土地被覆変化傾向抽出」の研究状況について報告する。

2.時系列衛星データを用いた土地被覆変化傾向抽出(朴 鍾杰)


2.1 はじめに

土地被覆変化抽出研究 では、広域性、均質性、周期性などの特徴を持つリモートセンシングデータが幅広く用いられ、特にNOAA/AVHRRやTerra/MODISなどの広域観測衛星から得られたNDVIを用いることが多い。NDVIは植物の光合成活動や植物の ”greenness”と密接な関係 があるため、大陸規模やグローバル異常気象の影響評価 、熱帯林のモニタリングや植生分布図作成 、グローバル炭素循環や水循環解析に多く用いられる。一方、NDVIの他に地表面温度(LST)を用いた研究も多い。干ばつの指標として蒸発散、植生水ストレス、土壌水分、熱慣性などの解析にLSTを用いている。特に植生がまばらに分布する地域における干ばつの影響解析はNDVIよりLSTが有効である と報告されている。本研究では18年間の時系列NOAA/AVHRRのNDVIとLSTを用いた土地被覆変化の傾向を調べるために、ⅰ) 18年間の月別異常変化抽出、ⅱ) フェノロジーのずれを考慮した年度別変化量抽出、ⅲ) NDVIとLSTの年度別変化量による18年間の傾向分析について行う。


2.2 使用データ
本研究で用いられる時系列NDVIとLSTは異なる機関から作成されたデータである。NDVIはGoddard Space Flight Centerによって作成された The Global Inventory Modeling and Mapping Studiesデータセットから、LSTはPathfinder Programの一部としてNOAA /NASAによって作成されたデータセットの熱赤外バンドから求めたものである。

2.3 分析結果
(1)NDVI・LST空間画像

図1は18年間のNDVIとLSTの平均データを用いてNDVI・LST空間にプロットし(a)、頻度が多い場所を中心にAからHまで8つに分類した(b)。NDVIのみでは区別が困難な赤道付近の常緑森林と高緯度の落葉森林がLSTによってC、EとF域に分類できた。NDVI・LST空間の特徴からC点はDry Landの植生域、EとFはWet Landの植生域として区別できる。
(a) NDVI・ LST空間における画素の頻度
(b) AVG_NDVIとAVG_ LSTを用いたNDVI・ LST空間画像
 (c) 日本におけるNDVI・ LST空間画像
 図1 NDVI・LST空間画像

九州地方と四国地方の常緑林域はD点で南アメリカや中央アフリカの熱帯林と同じ特徴を持つ。また、北海道と本州の山間地域はE点、本州の平野部はH点でさまざまな特徴が広く分布しているといえる。
(2)年度別変化抽出

図2は、フェノロジーのずれを考慮した1984年の年度変換NDVI画像である。平均NDVIのピーク旬を中心に6ヶ月間の平均であるため、非成長時期(降雪時期や融雪時期のずれなど)の変化に影響されない。DIF_NDVIの主な変化地域として、中央アフリカで月平均NDVIが0.1減っていることが分かる。その地域は平均NDVIが0.3~0.5の草地であり、月平均0.1減の変化量は非常に大きいといえる。その原因は、7月から10月まで中央アフリカでは高温が続き、またガーナとナイジェリア周辺では7月から12月まで記録的な少雨(異常気象レポート’89)の影響であると考えられる。

 図2 フェノロジーのずれを考慮した1984年の年間変化NDVI

(3)NDVIとLSTの経年変化

  図3は、すべての画素に対して18年間のDIF_NDVIとDIF_LSTを用いて標準化残差法によって傾向を求めた。(a)は緑の色ほどNDVIの増加傾向、赤色ほどNDVIの減少傾向を示す。DIF_NDVIの傾向が-0.005~0.005までは黄色として表した。時系列データを用いて傾向を調べる際、F分布の有意水準α=0.05以上で相関係数が0.5以上のみを用いたため多くの画素が無効になった(白色)。DIF_NDVIの経年変化が見られた多くの地域が増加傾向である。減少傾向地域としては中国香港周辺が広い範囲を示している。それ以外の地域では中央アフリカ西海岸とブラジルなど赤色が分布しているがまとまった地域は見られない。(b)は色が青いほどDIF_LSTの減少傾向、赤いほどDIF_LSTの増加傾向である。

 (a) 18年間のNDVIの傾向図

(b)18年間のLSTの傾向図

(4)NDVI・LST勾配空間図
多くの地域は図4のようにNDVIのみの変化かLST
図4 NDVI・LSTの勾配空間領域図

のみの変化である。NDVI増加傾向(緑)とLST増加 傾向(赤)地域に分かれており、主に草地(農作地を含む)ではNDVIの増加傾向が見られ、赤道を中心とした砂漠域ではLSTの増加傾向が見られる。

2.4 まとめ

 本研究は1982年から1999年まで18年間の時系列NOAA/AVHRRによるNDVIとLSTを用いて土地被覆変化傾向について調べた。はじめに、年ごとの異常変化を調べるために、18年間の平均データを作成した。月別異常変化地域を抽出するために、平均データと標準偏差データを用いて月別の偏差値を求めた。その結果、1984年にアフリカ大陸に起こった大旱魃は7月に始まり1985年1月まで続いたことが分かった。また、フェノロジーのずれを考慮した年間変化量(DIF_NDVIとDIF_LST)を求めた。
次に18年間のDIF_NDVIとDIF_LSTを用いて線形回帰分析による傾向を求めた。2つの傾向を用いてNDVI・LST勾配空間に示した。その結果、NDVI増加傾向とLST減少傾向の特徴を持つ地域としてカザフスタンの湿地、チャド湖の東部の草地とベネズエラ東部の農作地が、NDVI減少傾向とLST増加傾向の特徴を持つ地域としてイラクの農作地を抽出することが出来た。しかし、多くの地域ではNDVIかLSTのみの変化であり、主に草地や農作地でNDVIの増加傾向、砂漠地域でLSTの増加傾向であることが分かった。  以上の結果から、NDVIは気象の影響や人為的影響で植生被覆が変化しその結果としてNDVIが変化する。しかし、LSTの場合、土地被覆の変化によりLSTが変化する場合もあるが気象そのものがLSTに直接影響を与えるため、LSTの変化が必ずしも地表面の変化でないことが分かった。