環境・経済ネットワークグループ 国際会議参加報告


東京情報大学 三宅修平 山崎和子 櫻井尚子 藤原丈史 吉澤康介 鄭澤宇 高翔
  
International Conference on Business Management & Information Systems 2012(ビジネスマネジメントと情報システムに関する国際会議)が
2012年11月22日~24日、シンガポールのSingapore Management University(SMU)で開催され、経済・社会環境グループからは、4編の論文を
投稿し発表の場を与えられた。

ICBMIS2012の会議風景

   以下に、それぞれの発表論文の概要を示す。 論文タイトル:Multiscaling Properties of environmental related commodities, Z. Zheng, N. Sakurai, T. Fujiwara, K. Yoshizawa, S. Miyake, X. Gao, K. Yamasaki 概要:相関関係が高い経済学の世界では、各金融実体の間の依存関係を調べるのはますます重要になっている。    近年、minimal spanning treesを用いることによって金融実体の関係の解明に成功している研究事例が多くなっている。    本稿では、新たな相関係数の絶対値に基づくMSTネットワークを提案した。69に及ぶ日足データの相関関係を調べ、28個株市場のインディケーター、 21の為替のデータ及び20の先物の価格データを用いて分析を行い、MSTネットワークを構築した。その結果、MSTネットワークが時間をかけて進化に もかかわらず、同じタイプの金融資産は、時間の経過とともに安定して繋がっている傾向を明らかにした。また、ボラティリティの時系列間のタイ ムラグを発見した。さらに株式市場の指標とEUのCO2排出許容量(EUA)、株式市場の指標と原油先物(WTI)との間についても、そのタイムラグが存在 した。このタイムラグはボラティリティの時系列の相互相関関数のピークによって現れる。従って、株式市場の指標とEUA(あるいはWTI)間で、相互 相関関数のピークが0から(>20日間)著しく異なることから、株式市場の指標を用いて、近い将来のEUの排出枠あるいは原油先物価格のボラティリテ ィを予測できる可能性を示唆しているものと考えられる。    論文タイトル:Visualization of Input-Output Table Analysis using extended Skyline Chart, N. Sakurai, T. Fujiwara, K. Yoshizawa, S. Miyake, Z. Zheng, Xiang Gao, K. Yamasaki    概要:スカイラインチャートは、産業連関表を 図として表したもので、直感的にある地域の産業構造の特徴を把握できるものである。これは産業連関分析の創始者でありノーベル経済学賞を受賞 したワシリー・レオンチェフが考案した。そのスカイラインチャートはいくつか拡張が行われているが、今回の研究では次元の拡張を行った多次元 拡張スカイラインチャート(Multi-Dimensional Extended Skyline Chart : MDES)を開発した。通常のスカイラインチャートは1枚の図に1地域多部門 の産業連関表を表すものである。この場合、複数の地域を比較および分析を行うには、複数枚の図を見比べる必要があり一般的に煩雑となる。 そこで2次元のマトリクス上に各地域の各部門を配置することで、複数地域における複数の部門の特徴を直感的に捉えることができるようにした。 実例として、2000年のアジア国際産業連関表における10ヶ国24部門のMDESを作成し比較分析を行った。    論文タイトル:Analysis and Visualization of the Shareholding Networks for Stock Market Environment in Post-War Japan, S. Miyake, K. Yoshizawa, N. Sakurai, T. Fujiwara, Z. Zheng, Xiang Gao, K. Yamasaki    概要:本論では、戦後の日本において、株式上場している株式会社の経営に大きな影響力を持つ、個人および法人株主の上位10社大株主データを、 1950年~2010年までネットワーク分析し、株主の所有構造がどのように変遷して来たかについて明らかにした。 その結果、近年では旧財閥系の金融機関の所有割合が相対的に減少し、真の所有者が見えにくい信託銀行等のカストディアン(Custodian Bank)の 所有割合が増えてきたことを明らかにした。また、これらの非上場の信託銀行等の持ち株会社を探ると、金融機関を中心とする、大企業が大株主 となっていた。信託銀行等のカストディアンは顧客から集めた大量の資金をもとに、株式市場におけるプレーヤーとして、今後市場に対して大きな 影響力を持ちうるものと考えられる。    論文タイトルThe Complex Network Study of Money and CO2 Emission Flows between Industrial Sectors in Asian Countries using Input-Output Table, K. Yamasaki, T. Fujiwara, K. Yoshizawa, S. Miyake, Z. Zheng, Xiang Gao, N. Sakurai    概要:2011年に東日本大震災とタイの洪水と大きな天災が起きた。それぞれ、東北地方の自動車産業、タイのコンピュータ産業に壊滅的被害を与え、 それが世界経済に広く波及した。これらは、各国の産業のグローバル化に起因する国際的産業ネットワークの脆弱性を示した。そこで、我々は、 「アジア国際産業連関表」を用いて、アジア各国各産業部門間ネットワークの研究を行い、ネットワークの媒介中心性が、それらの産業で高い値を となることを示した。産業連関表は金銭価値(単位)で表されているが、金銭価値は、ある時代のある価値観を代表したものに過ぎない。金銭に代わ る価値基準としてエコロジカル・フットプリント(EF)が提唱された。EFとは、人間の生命維持ための資源の再生産や廃棄物の浄化に必要と換算され る土地面積である。そこで、金額で表された産業連関表をEFの価値で表すように変換し、そのネットワークを調べた。同じく、媒介中心性を調べる と、中国の「漁業」部門が大きな値を持つことが解った。このことより、中国の「漁業」が大きな被害を受けると、世界の人々の生活に金銭とは別 の価値観から大きな影響が広がる可能性があることが予測される。これらの論文発表は、いずれも高い関心を得たが、特に山崎教授が登壇して発表 した論文では、様々な質問と好意的なコメントが有った他、Information ScienceとEconomyを融合させた興味深い研究との特に高い評価を受けた。 帰国後、Managing EditorのProf. Agam Nagから、著者らにBest Paperに当該論文が選ばれたとの、祝いのメールが届き、改めて全員で喜びを分か ち合った次第である。その他、興味深い発表としては、ローカルな市や県の単位について、GISを利用して様々なデータの繋がりを地図上にネット ワーク表現して、持続的な社会達成を目指した研究、新興国の経済発展に関した研究、大学教育におけるキャリア教育のビジネスモデルなどの発表 が興味深いものであった。論文発表者は、アジア地域の研究者が多くを占めたが、特にインドやアフリカの研究者が目立っていたように感じた。新興 国研究者のこの分野に対する強い関心とそのエネルギーを強く感じた次第である。 このように、今回の経済・社会環境グループの本会議参加は研究成果を発表するだけでなく、今後の研究活動に資する、大変に有意義なものであった。 . 会議終了後の記念撮影 ベストペーパー賞受賞を喜ぶ筆者達
<