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東京農業大学 門間 敏幸

 現在,日本の農業経営は大きな変貌を遂げている。こうした農業経営をどのように評価するかは議論の分かれるところであるが,本論では情報の活用という視点から考えてみたい。農業経営において情報を戦略的に活用している事例は,大きく次の3つに整理することができる。第1は生産管理の局面での活用,第2は環境保全型農業構築場面での活用,第3はマーケテイングでの活用である。以下,これらの内容について紹介し,農業情報利用の将来方向を考えてみたい。

 農業経営の生産管理における情報の活用は,施設園芸と水稲,麦,大豆などの土地利用型作物では大きく異なっている。施設園芸の場合は,水,温度,肥料,農薬などを施設内外の環境条件に従って自動調節する施設制御情報システムとしての活用である。一方,土地利用型経営の場面では,経営耕地面積規模の拡大に伴う圃場数の増加・分散・土地生産力の多様性に伴う,管理の複雑さ,困難性への対応の必要性から情報の活用が求められている。こうした土地利用型経営における農家主導型の情報システムの開発では,圃場一筆ごとの管理を徹底化することによる「作業・管理の見える化」と徹底した「コスト管理」が目指される。作業・管理の見える化では,雇用した従業員が膨大な数の圃場一枚一枚について毎日実施する作業の内容(播種・施肥・防除・除草・収穫などの作物管理,農業機械・施設の毎日の利用計画)を知るとともに,圃場単位の徹底したコスト管理の実践が目指される。しかし,農業経営は作る作物の種類,地域の農地の状況,農家の技術水準に従って多種多様であり,汎用的な「作業・管理の見える化システム」の開発は困難である。むしろ,ベースとなる情報システムを開発して,その後はクライアントとなる経営単位に独自のチューニングをして提供する方向が必要である。すなわち経営単位のオリジナル情報システムの開発を目指すべきである。

 第2の環境保全型農業構築場面での情報システムも土地利用型経営での活用が中心となる。ここでは環境保全と生産性の同時追求を目指す精密農業(Precision Farming)が注目される。精密農業は第1の「作業・管理の見える化」を環境保全を含めてより大がかりかつ総合的に展開しようという狙いを持っている。精密農法は「圃場マッピング技術」「場所ごとの特徴に対応できる可変作業技術」「意思決定支援システム」の3つの要素から構成され,最適なマネジメントシステムの提供を目指している。まだまだ試験研究機関や情報関連企業による実験段階にあるが,GPSを活用した農業機械の利用,圃場マッピングシステムなどは一部の農家が既に利用している。また,精密農業とロボット技術との融合も検討されている。社会的にもGAPなどの生産工程管理,生産履歴情報等が求められる現在,精密農業の重要性は高まり,こうした技術を受容できる農家も着実に育っている。

 第3の農産物マーケティング・市場に関する情報化は,卸売市場システムの硬直化,農協による卸売市場を中心とした農産物流通システムの採用から遅れていた。こうした状況の中で,インターネットを活用した電子商取引の普及は,市場流通を中心とした伝統的な農産物流通システムに革命的な変革をもたらした。従来の農産物流通では<市場ニーズ=消費者ニーズ>とみなされ,市場が求める厳格な規格,品質の統一,出荷資材の統一等が促進され,規格外品の増加,集出荷経費の増大,さらには市場価格の変動をもたらし,消費者の真のニーズからかけ離れた生産・流通システムが構築されてきた。しかし,電子商取引の普及は,農家と消費者との間の直接取引を促進し,消費者の真のニーズを農家が把握し,消費者ニーズに即した商品開発,生産システムの構築を可能とした。特に農家自らホームページを開設して電子商取引を実践したり,こだわりを持った農家を結集して農産物のインターネット販売を実践する専門企業も現れ,農産物流通システムは大きく変化した。

 このように,先端農業経営の安定的な発展を支える情報技術,情報システムに関する最近の進歩はめざましいものがあり,そうした技術開発の成果を積極的に受け入れる農業経営も着実に育ってきている。こうした動きを加速化して本物にするために,最後に3つの提言をしておきたい。

 第1は農産物価格の高騰が望めない現在,農業経営の高コスト構造を助長するような情報技術の開発・普及を行ってはならないということである。常にコストを意識して情報技術の開発に挑戦すべきである。

 第2は農家の知恵を情報技術の開発に積極的に活かすべきである。農家の知恵と技術の特徴は総合化にあり,常に全体のバランスを考えた技術選択を行っている。開発技術を常に経営全体のバランスの中で評価してくれるのが農家であることを忘れてはならない。

 第3は完璧な機械・施設とその情報による管理を求めるのではなく,地域条件・経営条件に従った柔軟な情報システムの開発を行い農家が個性的な経営を実践できる余地を残すべきである。