Suomi-NPP搭載VIIRSによる漁火の観測


            東京情報大学 水圏環境変動過程研究グループ 浅沼市男、張 祥光
                                                東京農業大学 谷口旭、塩本明弘、西野康人、朝隈康司


  米国の運用するSuomi-NPP(SuomiNational Polar-orbiting Partnership:米国極軌道パートナーシップ)に搭載されるVIIRS(Visible Infrared Imaging Radiometer Suite:可視近赤外画像化放射計群)には、観測バンド)のバンドが含まれる。DNBは、DMSP(Defense Meteorological Satellite Program:防衛気象衛星計画)に搭載されるOLS(Operational Linescan System:作戦用ライン走査システム)の可視光波長帯域バンドを継承する。日中には太陽に照らされた雲の反射光を、夜間は月に照らされた雲の反射光を観測し、全球の気象観測に利用されてきたバンドである。空間分解能は750m、波長帯域は500~900nmをカバーする単一バンドであり、白黒の画像を与える。本来は、雲の分布を観測するためのバンドであるが、街明かりや漁火の観測が可能であるため、ここに紹介する。  図1は2012年10月23日午前1時(JST)に観測された夜間の画像である。首都圏、名古屋、大阪、福岡などの大都市圏の街明かりが、鮮明に映し出されている。1985年のチェルノブリ原子力発電所の事故の際には、DMSPのOLSが事故前と事故後の街明かりの変化を捉えていた。Suomi-NPPは東日本大震災以後に打ち上げられており、VIIRSのDNBにより震災前後の街明かりの変化を捉えることはできなかった。しかし、図1の画像を見ると、東京、名古屋、大阪、福岡などの大規模都市の街明かりを読み取れるが、地方において街明かりの判読が困難である。これに対して、韓国においては、ソウル、プサンに加え周辺都市における街明かりが鮮明に表示され、明らかに韓国側において大量の電力が消費されていることが分かる。3.11以降の国内における節電の傾向が読み取れる。 また、図1では、東シナ海から日本海にかけて、漁船の集魚灯の明かりである漁火が観測された。一見すると、センサーのノイズかと思われるように白い点が観察されるが、東シナ海の広範囲にわたり、漁火が分布している様子が分かる。漁火は、一つの漁船で1個当たり2から3kwの明るさのランプを数十から数百個程度点灯するもので、代表的な漁業対象種はイカであるが、その他の魚種の漁業にも利用されている。2、30mから、せいぜい大きくても5、60mサイズの漁船の大きさは、DNBの750mの空間解像度から見ると、明らかに検出限界以下のサイズである。しかし、集魚灯の明かりは非常に強く、一つの画素を飽和させるほどの強い明かりとして観測され、個々の漁船の位置を判読可能である。 図2は、図1の済州島の南側の海域を拡大表示し、外務省のホームページにおいて公開されている協定文書をもとに、2国間の漁業協定の線を表示した画像である。緑線は1999年1月22日から効力の発生した韓国との漁業協定により定められた日韓南部暫定水域と漁業暫定線である。赤線は2000年2月26、27日の日中の閣僚協議において合意した日中中間水域、青線は2000年6月1日から効力の発生した中国との漁業協定により定められた暫定措置水域である。黄色破線は東シナ海の北限線である。日中と日韓の水域が重なって設定されており、非常に微妙な水域である。これらの水域は、明確な中間線を設定することが困難であったため、妥協策として設定された水域である。このような水域では、自国の船舶に対してのみ自国の規制が適用され、漁獲制限などがあるものの、それぞれの国の漁船による自由操業の可能な海域である。 東シナ海の漁場は、黒潮と大陸棚上の沿岸水との境界付近に形成される。大型魚のカツオ、マグロは、透明度が高く、見通しを確保できる黒潮を回遊経路として選択する。一方、イカなどの小型魚は、植物プランクトンが多く、さらに、動物プランクトンや小魚の多い、透明度が低く、大型魚による捕食を避けることの可能な沿岸水に生息する。カツオ、マグロは、摂餌時に沿岸水側へ侵入し、摂餌後に黒潮へ戻る。この黒潮と沿岸水との混合する海域に、生産性の高い漁場が形成される。一方で、漁場と市場との位置関係は、非常に重要な漁業因子となる。東シナ海では、魚の加工能力を持つ大型の加工船は運用されず、魚を陸地へ輸送し、陸上において消費あるいは加工する漁業形態が主である。特に、漁場で操業する小型船と、小型船の魚を市場へ運ぶ運搬船の組み合わせは、収穫物の鮮度維持と運用効率を考慮する必要があり、どこの海域でも成立する関係にはない。 日本側から見ると、大規模な水産加工能力を持つ工場は、九州以北の地であり、かつ、長崎などある程度の消費能力と築地などへ輸送能力を持つ地域に立地している。このような地域は、魚の加工業従事者の労力も不可欠であり、さらに、加工品を流通させる能力のある地域である。南北に長い東シナ海は、九州から漁場までのアクセスに大きな差のでる海域であり、全てが日本の消費にとって有望な漁場とは限らない。第二次大戦前後に、尖閣列島において営まれたカツオ漁とカツオ節生産は、現地において、安価な労働力を利用したもので、現在では成り立ちにくい生産形態である。しかし、東シナ海の漁業資源の保護は不可欠であり、二国間の話し合いをもって、適切な漁業資源の保護と活用を図るべきである。