オホーツクキャンパスと宮古亜熱帯農場に設置された受信設備により提供される海洋情報


                                                          東京情報大学総合情報学部   浅沼市男、張 祥光


1.東京農業大学オホーツクキャンパスの受信設備による観測

  図1は、SeaDAS (SeaWiFS Data Analysis System) により作成したカムチャッカ半島を中心とする海底の深度分布図である。0mから-10000mまで淡色を配色し、-100mと-200mの等深線を合わせて表示した。カムチャッカ半島東海岸の中央部から千島(クーリル)列島に沿って千島海溝が走り、東側にアリューシャン列島に沿ってアリューシャン海溝が走る。その中間を南方方向へ天皇海山が伸びる。カムチャッカ半島西側のオホーツク海は、ほとんどが1000m深程度の海域に覆われ、北部に200m以浅の大陸棚が東西方向に広がる。一方で、オホーツク海南部の北海道から千島列島沿いに3000mを超える海域が広がる。オホーツク海と比較するとベーリング海は3500mから4000mの海域が広がり、浅海域はごく沿岸に限定される。このオホーツク海盆とベーリング海盆を分離する形で、千島列島とアリューシャン列島が位置する。
   東京農業大学オホーツクキャンパスに設置したMODIS受信設備により、日付変更線付近までの西部ベーリング海の観測が可能となった。観測頻度は、受信範囲の東端に位置するため、衛星の回帰日数に依存し、おおよそ3日に1回程度となる。図2-1は、2009年8月16日に受信されたMODISデータから求めたクロロフィル-a分布図である。黒い部分は雲などによりクロロフィル-a濃度の推定が困難な部分である。カムチャッカ半島東方のベーリング海に高いクロロフィル-a濃度の海域が観察された。また、図2-2に示すように、オホーツク海北東奥部のシェレホワ湾とペンジナ湾においても、同様に高いクロロフィル-a濃度の海域が観察され、河川からの栄養塩の供給により基礎生産力の高い海域維持されていると考えられる。これに対して、ベーリング海においては、南西方向へ流れる沿岸流により、極域からの栄養塩濃度の高い海水が継続的に供給されると考えられ、高い基礎生産力が維持されたと考えられる。西部ベーリング海における観測は少なく、北極圏の環境変化を受ける海域として、引き続きモニタリングが必要な海域である。

2.東京農業大学宮古亜熱帯農場の受信設備による観測

    図3は、図1と同様にSeaDASにより作成した南シナ海の深度分布図である。南シナ海中央の南シナ海海盆は最深4000mを超える。一方で、南シナ海の西側には浅海域が広がる。台湾海峡から中国大陸に沿って200m以浅の大陸棚が海南島の南方沖合まで続く。また、ベトナム南部から南方海域にかけても200m以浅の大陸棚が広がる。海南島西部からベトナム北部にかけてのバクホ湾(トンキン湾)の中央部には300m近くの深みがあるが、全体として浅い海域である。南シナ海には多くの島、環礁が点在し、海南島南方に西沙諸島(パラセル諸島)の浅海域、フィリピンのパラワン島の西方に南沙諸島(スプラトリ諸島)の浅海域がある。排他的経済域としての海洋資源をめぐり、中国、台湾、フィリピン、インドネシア、ベトナム、マレーシア、ブルネイなどとの間で領海問題が存在する。
     東京農業大学宮古亜熱帯農場に設置したMODIS受信設備により、おおよそ3日に1回の割合でベトナム全域と沖合海域の観測が可能となった。図4-1は、2009年8月24日に受信されたデータから求めたクロロフィル-a濃度の分布図である。画像中央部の黒い部分は、サングリント帯(太陽光が直接反射する海域)のため、クロロフィル-a推定の困難であった海域である。海南島からバクホ湾の沿岸にクロロフィル-a濃度の高い海域が見られた。また、ベトナム南部のメコン川沖合の沿岸域においても、同様にクロロフィル-a濃度の高い海域が見られた。図4-2の海南島部分の拡大図によると、クロロフィル-a濃度の高い沿岸水が、バクホ湾から時計回りの沿岸流として海南島南西沿岸から南シナ海へ流れ、その後、西沙諸島の西側で反転し、西沙諸島の北側を時計回りに南シナ海へ時計回りに流れる様子が観察された。また、中国大陸から飛び出した形の雷州半島と海南島との間のチュンチョウ海峡には、クロロフィル-a濃度の高い海域が見られた。

3.今後の展開

     東京情報大学、東京農業大学オホーツクキャンパス、東京農業大学宮古亜熱帯農場の3つのMODIS対応受信設備により、アジア東岸域のリアルタイム観測が可能となった。本年末にもMODISの継続観測センサーであるVIIRS (Visible Infrared Imaging Radiometer Suit)を搭載するNPP (The National Polar-Orbiting Operational Environmental Satellite System (NPOESS) Preparatory Project (NPP))が打ち上げられるとの情報があり、引き続き本研究により整備した観測体制により、アジア東岸域の環境変化の観測に貢献したい。