網走沖の宗谷暖流域における基礎生産モニタリング


            東東京農業大学 アクアバイオ学科 塩本 明弘、朝隈 康司、西野 康人、谷口 旭


1. 宗谷暖流水でのモニタリング


北海道オホーツク海沿岸域の表層には黒潮を起源とする宗谷暖流水が流れている。黒潮は高水温、高塩分、貧栄養という特徴がある。また、一般に暖流系の水ではピコプランクトンと呼ばれる大きさが2μm以下の小型の植物プランクトンが主たる基礎生産者となり、生態系を支えていることが知られている。
 宗谷暖流水は、その起源である黒潮の特徴を引き継ぎ、オホーツク海の中央部の表層に広がる水(オホーツク海表層低塩分水)に比べて、高水温、高塩分であり、栄養塩濃度は低い。一方、春季には植物プランクトンの現存量の指標であるクロロフィルa濃度に著しい増加がみられ、夏季にはクロロフィルa濃度は低くとも大型の植物プランクトンの寄与が高いという報告もなされている。これらの基礎生産者に係る特徴は暖流系の水の有するものではなく、寒流系の水の有するものである。このような特徴は豊なオホーツク海につながることとなる。
海洋での植物プランクトンのモニタリングには従来のような船による調査と人工衛星を用いた広範囲に及ぶ調査の併用が有効である。そこで、我々は船と人工衛星を用いた宗谷暖流水での基礎生産モニタリングを始めている。ここでは、その現状を述べる。

図1


2.乗船によるモニタリング成果の概要


&nbst船による調査は北海道オホーツク海沿岸域の網走沖において、2009年の4、5、9、11月に実施した(図1)。ポリバケツを用いて表面水を採水し、大きさ(<2、2-10、>10μm)別にクロロフィルa濃度を測定した。
  その結果、春季(4月)には、クロロフィルa総濃度が7mg/m3を超す高い値が観測された(図2)。他の季節では調査点による違いもみられたが、得られた値は1~4mg/m3であり、一般的に暖流系の水で報告されている値よりも高いと考えられる。

図2



3.人工衛星モニタリングの現状



2008年12月に設置されたMODISデータ受信設備を用いて網走地域の画像の切り出しがある程度可能になったので報告する。レベル0データから、幾何補正済データであるL1Bへの変換および網走地域の切り出しには、NASAが提供するMODISL1DB 1.5 (MODIS Level-1 Science Processing Algorithm)を用いた。海洋基本データについては、NASAのL2GEN 5.8.9 (MODIS Ocean Science Processing Algorithm)を用いて、海表面温度(SST: Sea Surface Temperature)およびクロロフィル濃度を算出した。

 また、HKM解像度の可視域および近赤外域(チャンネル 1から7)については、Laboratoire d'Optique Atmosphere, Franceより提供されているHDFLook 9.6 および、放射伝達コード 6S (Second Simulation of the Satellite Signal in the Solar Spectrum) を用いて、衛星幾何条件およびエアマス、大気分子による吸収の補正をおこない、チャンネル1 (赤バンド)、4 (緑バンド)、3 (青バンド)のナチュラルカラー合成画像およびチャンネル 1, 2 (近赤外バンド), 6 (短波長赤外)の赤外合成画像、NDVI (正規化植生指標)画像を作成した。なお、このような赤外合成画像は、既に東京情報大学が提供し網走市役所によって流氷状況のモニタリングに利用されているが、本グループでは、

今後サロマ湖や能取湖の結氷状況をモニタリングするために、HKM解像度であるチャンネル6の画素をQKM解像度であるチャンネル2に合わせて線形分割し、擬似的にQKM解像度とすることにより視認性を高めた画像を提供している。また、雲除去にはMOD35は用いず、チャンネル1, 2, 6の放射輝度に閾値を設定し簡易除去を行った。これは、QKM解像度に対応させるためである。これらの画像から雲量が30%以下の画像を選び出し、オホーツクのWebサーバーにて毎日公開している(http: //www.bioindustry.nodai.ac.jp/ ~environ/)。今後、オホーツクキャンパスでのエアロゾル観測結果を自動的に反映させるシステムを構築し、より高精細な大気補正済み画像の提供や、網走沖、標津沖の海洋観測(クロロフィルおよび懸濁物)の結果と相互補完させ、沿岸域に対応した海洋低次生産量推定アルゴリズムの開発などを予定している。さらに、漁業者や農業者向けの携帯電話への画像配信など、地域連携を目指した共同研究も計画している。

図3 北海道全域のQuickLook 画像                           図4 網走地域大気補正済みプロダクト