NDVIの時間周波数応答による水稲圃場自動抽出に関する研究、ベトナム南部メコンデルタを事例として



東京農業大学 畑中勝守、ラマドナ・サフィル


1.研究手法の概要

  MODISセンサを衛星リモセンに用いる最大の利点は、条件が整えば対象とする地域のデータがほぼ毎日得られることである。すなわち、MODISは空間解像度は低くとも時間解像度が高く、時間変化を伴う物性値の観測に適したセンサである。そこで本研究では、MODISにより観測された時系列NDVIの時間周波数応答解析を行い、波形特徴から自動的に水稲圃場を分類する手法を開発した。  時系列NDVIは、植生活性の応答性に優れており、水稲圃場における時間変化は稲の作付けカレンダーと良い一致を示す。田植前の圃場はNDVIが小さく、稲の成長とともに増加しやがてピークを迎え減少する正弦関数のような変化を呈する。この波形の周波数応答解析を行うと、パワースペクトルが最大となる周期は水稲生育期間と良い一致を示すことから、時系列NDVIの波形特徴抽出により当該データが水稲圃場のものか否かを判別することが可能になる。  本研究では、時系列NDVIの波形特徴抽出に一次元離散Wavelet変換を用いる。離散Wavelet変換は、異なるレベル(多重解像度解析アルゴリズムで定義されている用語で、周波数帯を指す)でウェーブレットパワー(WP)の時間変化を求める事ができ、波形変化の周波数成分と時間成分の両方を議論できることから、スペクトル解析に比べ有利と考えられる。特に、本研究の対象地域であるベトナム南部メコンデルタ地域では、水稲の二期作、三期作が盛んであることから、水稲圃場の抽出のみならず作付け期の分類にも利用でき、有利と期待できる。

2.解析適用例の紹介


  解析対象として、2009年1月?2011年12月のベトナム南部メコンデルタ地域(220km×220km)のMODISデータから10日間コンポジットイメージを作成しNDVIを計算した。これらのうち、土地被服分類の教師データを水稲二期作、三期作ならびにその他の土地利用(果樹園や集落など)に分けてそれぞれ30点選択し、離散Wavelet変換にてWPの時間変化を求め、土地利用ごとの特徴抽出を行った。その結果、レベル-3(40~80日周期)において水稲圃場はWP値が他の土地利用よりも明らかに大きく、レベル-4(80~160日周期)でも同様の傾向が確認できた。すなわち、稲の生育によりNDVIが変化するとき、WPが他の土地利用より卓越する周波数成分は水稲生育期間(およそ90日)と良く一致し、同じレベルの他の土地利用ではWPがゼロに近いことが確認できた。また、WPが大きい期間の出現パターンにより水稲二期作、三期作を分類できることも確認できた。次に、WPのしきい値を決定し自動的に水稲圃場を分類するため、NDVIの基本統計量と各レベルのWPを使いSPSSにて線形判別関数を計算し、教師データ以外の残りのデータの土地利用分類を行った(下図参照)。紙面の都合上、2009年ならびに2010年の結果やそれぞれの詳細は割愛するが、水稲二期作、三期作の領域は年により変化しているものの水稲圃場全体の面積に大きな変化はなく、例えば洪水の有無により前年三期作だった圃場が二期作へと変化した領域を分類できるなど、現地調査と定性的に良い一致を示した。しかし、正確な統計情報が得られなかったため分類精度の比較は行えておらず、今後の課題であると考えている。