情報基盤研究グループ(IIRG)の研究概要



東京情報大学 布広 永示, マッキン ケネスジェームズ,朴 鍾杰,松下 孝太郎,浅沼 市男,原 慶太郎
日本大学 五十嵐 正夫,柳澤 幸雄


1.はじめに



情報基盤研究グループの目的は,広域衛星データ(NOAA, MODISデータ)を利用して,土地被覆変化の抽出,NDVI (Normalized Difference Vegetation Index)の時系列変化など,環境変化に関わる現象や問題を解析することである。この解析手法としては,自己回帰分析などの統計解析やニューラルネットワークなどの知識情報処理などを適用し,新しい解析手法や解析システムの研究・開発を進める。

2.IIRGの研究概要


本研究グループの主要な研究テーマを次に記述する。

①東アジアの土地被覆変化抽出の傾向分析

 2001年から現在までの東アジアの土地被覆変化を抽出し,その原因を調べる。

②東アジアの災害図(火災,洪水)の作成

洪水や火災など自然災害の抽出の自動抽出について研究する。

③自己回帰分析を用いたNDVIの時系列予測

ある地点の気象変化は遠く離れた海水域や大陸の温度によって影響される。そこで,統計的手法を用いて水表面温度と地表面温度からNDVIの時系列変化の予測,ならびにNDVIに自己回帰モデルを適用し,NDVIの予測をする。

④知能情報処理を用いた土地被覆領域の境界抽出

ニューラルネットワーク,自己組織化マップなどの 知能情報処理手法を用いた土地被覆分類の研究を行い,土地被覆分類の精度向上を目指す。

⑤衛星画像データ解析システムの開発

 衛星画像のデータ分散化,解析結果の可視化,サーバ環境の仮想化,画像データ処理の高速化などに関する研究やその成果を実装する衛星画像データ解析システムを開発すると共に,プロジェクトの研究支援や情報発信を行うシステムを構築する(図1)。


図1 衛星画像データ解析システム


本報告では,②に関連した「2009年初めての黄砂観測」,③に関連した「植生データの解析と予測」,④に関連した「知能情報処理を応用した土地被覆分類」の研究状況について報告する。

3.2009年初めての黄砂観測


東アジアで発生する黄砂は,中国大陸内陸部のタクラマカン砂漠,ゴビ砂漠や黄土高原など,乾燥・半乾燥地域で,風によって数千メートルの高度にまで巻き上げられた土壌・鉱物粒子が偏西風に乗って日本に飛来し,大気中に浮遊あるいは降下する現象である。気象庁によると内モンゴル地域では,例年より気温が4~6℃上昇,雨は一カ月の間降っていない状態である。そのため,今年は2002年3月以来の強い黄砂が発生すると予測している。今年の初黄砂画像は2009年2月20日04時35分(GMT時間)のAqua/MODISによって黄砂が観測された(図2)。MODIS画像判読によって黄砂は18日に中国ゴビ砂漠(北緯42度,東経118度)で発生し19日中国内モンゴルを通過,20日黄砂は薄くなり韓国ソウル上空通過した。21日は黄砂の存在が確認できない。MODISデータから黄砂領域を抽出するための研究は2003年学会に発表したが,今後の課題としては,黄砂の自動抽出により,黄砂の流れと到着予測時間を算出するなどの研究が必要である。


4.植生データの解析と予測


本研究では,衛星から観測されたデータを解析することで,データがどのように変動しているのか理解し,近い将来データがどのように変動するのか予測する。この研究の第一歩として,1982年から1994年に観測されたNDVIにARMAモデルを適用し,モデルの推定を行い,推定値と実測値の関係を調べた。その結果,推定されたモデルは実測値を非常に良く説明していることが確かめられた。更に1995年から1999年に観測されたNDVIデータと,1994年以前に観測されたデータから推定されたモデルより予測値を求め,データとの関連性を調べたところ,予測値は実測値の変動と良く適合していることが確かめられた,図3の黒い点は実測値,赤い点は予測値を示しており,推定されたモデルの妥当性を示している。推定されたモデルはデータの誤差を除去したものであり,推定されたモデルを,周期関数の和として表し,それらの周期成分を抽出する。周期関数を正確に推定することができれば,データの変動の説明や予測が可能となる。NDVIデータについて周期関数の和を求めたところ,求めた関数は実測値のデータの周期性を大変良く説明しているが,NDVIの振幅については,実測値と有限個の周期関数の和に乖離が見られた。有限個の周期関数の和でEL NinoやLa Ninaの現象と比較すると,それらの現象を説明できるほどの成果は得られなかった。そこで,1949年から2008年までの,太平洋上のある地点における海水温のデータにARMAモデルを適用し,更に周期関数の和を求めたところ,12年以上の周期が抽出された。つまり,大きな変動因を求めるには,NDVIのデータは,観測期間が短すぎるという結論が導き出される。この海水温のデータから得られた有限個の周期関数の和と,El Nino,La Ninaの発生期間を比較すると,この60年間のデータで,約85%の確からしさで,El NinoとLa Ninaの発生期間が正しく説明された。


図3  実測値と1994年以前のデータより推定されたモデルによる予測値

5.知能情報処理を応用した土地被覆分類



本研究では,新たな継続可能な開発指標 (Sustainable Development Indicator: SDI)の提案の一助となることを目標に,リモートセンシングによる継続的土地被覆分類および土地被覆変化の観測のため,知能情報処理を応用してMODISデータによる土地被覆分類・予測を行う。2008年度の研究実績としては,アンサンブル学習を用いた人工ニューラルネットワーク,および自己組織化マップを適用し,MODISデータを用いた土地被覆分類の検討および問題の解決手法を提案した。実験では千葉県の土地被覆分類を行った。本年度の研究の結果,以下の結論が得られた。

① MODISデータを用いて正確な土地被覆データのない領域においても適切な土地被覆分類は可能。

② 複数の土地被覆カテゴリが混ざる領域では,MODIS解像度に起因する誤差が発生する。

今後は,知能的アルゴリズムによる土地被覆領域の境界抽出を検討し,土地被覆分類の精度を目指す