情報基盤研究グループ(IIRG)研究状況



東京情報大学 布広 永示, マッキン ケネスジェームズ,朴 鍾杰,松下 孝太郎,山口 崇志 浅沼 市男,原 慶太郎
日本大学 五十嵐 正夫,柳澤 幸雄

1.はじめに



情報基盤研究グループの目的は,広域衛星データ(NOAA, MODISデータ→赤字削除)を利用して、土地被覆変化の抽出、植生指数の時系列変化など、環境変化に関わる現象や問題を解析する研究・開発を進めている。本報告では、「単画像解析による地震被害判読」、「知能情報処理を応用したMODISデータのコンポジット手法検討」、「時空間情報を用いた階層ニューラルネットワークによる水田域判別器の自動生成」(→赤字追加)の研究状況について報告する。

2.単画像解析による地震被害判読(朴 鍾杰)



本研究は地震災害による被害影響を短時間に解析し、現場の救援対策に必要な支援データ作成を目的とした。そのため、処理に複雑なアルゴリズムや補助データを用いない単画像航空写真用アルゴリズム開発について研究を行った。

2.1 本研究の特徴

(1)ピクセルベースからオブジェクトベースへ

既存の画像解析は主にピクセルベースの解析による特徴量抽出が多く、そのため、物体のスペクトルの特徴に多く依存している。航空機センサーの波長の範囲は可視域から近赤外域が主であり、スペクトル特徴による解析が主である。しかし、解像度が数センチから数十センチであるため、1つの物体(オブジェクト)はいくつかのピクセルによって構成され、都市域のように同じオブジェクトであっても色情報(スペクトル)が異なる場合が多く(例:建物の屋根の色など)、また、同じ色であっても異なるオブジェクトである場合がある。そこで、都市域など多くのオブジェクトが混在する地域ではピクセルベースによる解析よりオブジェクトベースの解析が妥当である。

(2)スペクトル解析からテキスチャ解析

  各ピクセルに対するスペクトル解析による分類の限界から2次元に広がるオブジェクトの特徴(テキスチャ)を用いることでより人間の感覚に近い分類が可能になる。また、Z軸のスペクトル情報から2次元(X軸とY軸)のテキスチャ情報を用いられるため分類解析における入力情報の選択幅が広くなる。

2.2 研究方法

(1)最適なSegmentationを行うためのパラメータ設定

 eCognitionではSegmentation行うために3つのパラメータがあり、Scale Parameter(Segmentationの大きさを左右する)、Segmentationにおける均質性を決めるColorとShape、CompactnessとSmoothnessがありそれぞれ重みを設定する。重みの決定は現在定量的な方法が無く、解像度と抽出するオブジェクトの特徴を考慮し経験的に行う。本研究では都心の地震被害地抽出のために3つのパラメータを段階的に変換しながら、1回パラメータ設定から階層的(3回)パラメータ設定を行い目視によりSegmentの精度を評価した。また、出来る限り簡単なアルゴリズムとの前提があるため、精度の違いが大きくない場合1回パラメータ設定による方法を選んだ。その結果、都心の地震被害地抽出のためには SP : 100、S : 0.8、C : 0.8が最適であることが分かった(図1)。

(2)教師あり分類結果

  5つのGround Truthデータを用いて教師あり分類を行った。その結果を図2に示す。災害地域は赤に分類されており大まかに良好な結果であると判断できる。しかし、細かい部分においては誤分類がある。その原因としてはSegmentationの問題が主である。住宅の場合正確なSegmentationのためにはScaleパラメータを小さくする必要がある。また、線路と災害地の区別が混乱であることが分かった。

            
図1  SP : 100、S : 0.8、C : 0.8によってSementation                   図2 原画像と教師あり分類結果
      された地震被害地画像

2.3今後の課題

 オブジェクトの大きさによって、Segmentationの設定パラメータが異なり、また、解析画像の解像度によってテキスチャ情報も異なる。そのため、現在では経験によってパラメータを設定するが今後の課題としてはオブジェクトに最適な解像度とSegmentaionの設定法とテキスチャ情報の特徴について調べる必要がある。

3.知能情報処理を応用したMODISデータのコンポジット手法検討 (マッキン ケネスジェームズ)



衛星によるリモートセンシングデータは、雲等のノイズ除去のため、複数日分のデータを画像合成するコンポジット処理が広く利用されている。コンポジット処理により、特定日数の画像データの内、雲等に覆われていない最もクリアなデータを集めてノイズの少ない画像を作成することが目的である。その際、コンポジット処理ではノイズの少ない「最良」データを選択するための基準、およびアルゴリズムが重要となる。衛星データのコンポジット手法は、最大NDVI法(MaxN)、最大温度法(MaxT)、NDVI制約付き最小走査角法(NMinS)、温度制約付き最小走査角制約法(TMinS)、NDVI ならびに温度値制約付き最小走査角法(NTMinS)、最小青チャンネル法(MinB)、温度拘束条件付き最小青チャンネル法(TMinB)、等すでに多くの方法が提案されている。本研究では、知能情報処理を用いて、コンポジット処理の精度改善を検討する。過去に提案されている手法の多くが制約または条件を設けている点に着目し、この制約条件のパラメータ設定および制約の処理順序によって、コンポジット結果が大きく変わることを問題として取り上げる。本研究では、この問題を解決するため、新たにファジィ集合を用いたコンポジット手法を提案する。ファジィ集合論を応用することにより、従来のクリスプな制約条件と比べ、より柔軟に多目的な制約を満たすデータ選択が可能になると期待する。また、ファジィ集合を用いることにより、制約条件を同時に評価できるため、従来の手法のように制約条件の処理順序の影響もなくなる。提案するファジィ集合を用いたコンポジット手法の初期適用では良好な結果が得られている。今後は、利用するファジィメンバシップの見直し、および知能情報処理を用いたパラメータ自動チューニング等を検討し、従来のコンポジット手法とのノイズ除去精度比較および特徴比較を実施する。

4.時空間情報を用いた階層ニューラルネットワークによる水田域判別器の自動生成 (山口 崇志)



 米を主食とし稲作を主たる農業とするアジア諸国において、水田域の変化を観測することは収穫量予測や開墾計画、農業政策を決定する上で非常に重要である。本研究ではリモートセンシングによる自動水田域地図作成について検討を進め、提案する機械学習を用いた水田域判別器の有効性を検証した。 衛星画像により水田域を観測した時、水田は時期によって異なる被覆として観測される為、リモートセンシングによる判別は難しくなる。このような年間を通じ動的に変化する被覆の判別には、周期の短い中解像度衛星等のデータを用い時空間的情報を用いるのが有効である。これに注目し水田域判別を行う決定木ベースのエキスパートシステムが提案されているが、水田の年間サイクルは国や地域毎にその気候や文化、栽培方法により異なる為、ある地域のデータを基に分析し生成された水田域判別器を、そのまま他の地域において適用することは困難である。本研究ではこの問題点に着目し、機械学習を用い自動的に国や地域毎に異なる水田域判別器を生成する手法を提案する。 提案システムでは階層型ニューラルネットワークを基にした分類器により水田域識別器の自動生成を行った。一般的な誤差逆伝播学習による階層型ニューラルネットワークは、入力信号と正しい出力信号(教師信号)の組を繰り返し提示することで、その入出力パターンを近似する関数を得る。500m解像度MODIS1ヶ月コンポジットデータより対象ピクセルの赤、近赤外、短波赤外の反射率を用い、その11ヶ月分を入力信号とした。教師信号には国土数値情報の土地利用図を500m解像度のラスター画像に変換し用いた。これにより、MODISデータの対象ピクセルが水田域であるか識別する分類器を得ることが可能である。 対象地域を比較的水田が広く分布する北九州周辺とし、提案システムの分類精度を検証したところ未学習のテストデータに対し90.8%の分類正解率を得た。本実験では教師データに用いた土地利用図をMODISデータの座標上にマッチングする処理上で誤差が生じていることを確認しており、これを改善することで更なる精度向上が期待できる。