Terra/MODISを用いた日本の潜在自然植生の把握



陸圏グループ 東京情報大学 原田一平、富田瑞樹、原慶太郎
情報基盤グループ 東京情報大学 朴鍾杰

1. はじめに


人々は森林から様々な生態系サービスという恩恵を受けてきた。しかし、1950年代に薪炭からガスや石油などの燃料に変化したことにより、里山は管理されなくなり、森林の遷移が進行し、極相林へと移行しつつある。近年、国土保全やレクリエーションなどの環境機能面の見地から生物多様性の保全・再生に係わる里山が再認識されており、森林景観の定量的把握の必要性・重要性が増している。原田ほか(2011)はLUIS(Land Use Information System)を用いて、1900年から1985年までの85年間にわたる土地利用・土地被覆変化から森林変遷のタイプを日本全土で抽出し、気候的・地形的特徴から森林変遷を定量的に把握している。環境省の第6,7回自然環境保全基礎調査は2000年から2万5千分の1植生図の全国整備を進めているが、平成23年3月時点の整備率は55%と低く、里山の管理が放棄された地域では植生現況を把握していないのが現状である。そこで、本研究ではTerra/MODISを用いて2001年から2010年までの相観植生図を作成して、森林景観の変遷を把握することを目的とする。

2. 使用データ


東京情報大学では千葉市にあるキャンパスに地上受信局を2000年に設置し、米国航空宇宙局(NASA)が1999年12月に打ち上げた地球観測衛星EOS AM-1(Terra)に搭載されたModerate Resolution Imaging Spectroradiometer (MODIS) センサのデータの定常的受信に、2000年11月18日に成功し、継続的に衛星データを直接受信してきた。東京農業大学オホーツクキャンパス(網走市、2008年12月設置)及び東京農業大学宮古亜熱帯農場(宮古島市、2009年6月設置)に地上局を整備し、オホーツク海からフィリピン全域を含む東アジア域の陸圏及び水圏の環境変化をリアルタイムで取得・処理している(Crossroads, Vol.21, 4-5 (2009))。本研究では東京情報大学で受信している2001年から2010年までのTerra/MODISデータを利用した。

3. MODISを用いた土地被覆図の作成


3.1 土地被覆分類図の作成


雲を除去した多時期のコンポジット(Surface Reflectance Bands1-7+NDVIの計40チャネル)データを作成し、教師なし分類を用いて土地被覆分類を行った。分類項目はISODATA法(クラスター分析)により、高山植生、常緑針葉樹林、落葉広葉樹林、常緑広葉樹林、混交樹林、農地(草地、畑地、水田)、都市域、河川・湖沼(8項目)を分類して日本全土の植生図を作成した(CROSSROAD, Vol.23, 4-5 (2010))。植生図の精度検証は、第6, 7回自然環境保全基礎調査データ(環境省)を利用した。

3.2 WIと潜在自然植生との関係


原田ほか(2011)は吉良(1975)、野上(1994)の温量指数(Warmth Index; WI)を指標とした気候帯区分を図化して(Fig.1)、LUISの土地利用・土地被覆変化から85年間(1900~1985年)にわたる森林景観の分布を日本全土で把握している(Fig.2)。本研究では2001年から2010年までの多時期のMODISデータを用いて作成した日本全土の相観植生図、WIを指標とした気候帯区分の分布図および85年間継続して森林であった地域における森林変遷の分布図を地理情報システム(Geographic Information System; GIS)に整備して、潜在自然植生の分布を把握する。


4. 結果および考察


2001年の多時期(7, 8, 9, 10, 11月)のTerra/MODISデータを用いて作成した相観植生図の結果をFig.3に示した。8クラスに分類した項目から高山植生、常緑針葉樹林、落葉広葉樹林、常緑広葉樹林、混交樹林、農地、都市域の土地被覆を東日本域(北海道・東北・関東・中部地方)および西日本域(近畿・中国・四国・九州地方)の気候帯区分ごとに占める画素数をFig.4およびFig.5に示した。東日本域と西日本域で最も多く分布している植生はアカマツ二次林、スギ・ヒノキなどの常緑針葉樹林で、東日本域の常緑針葉樹は森林的利用域の36.0%、西日本域の常緑針葉樹は森林的利用域の53.5%を占めていた。冷温帯域に成立する森林タイプはブナ・ミズナラなどの落葉広葉樹林(森林的利用域の24.3%)であり、多雪という特殊条件の地域に成立している極相林としての性格が強い(野上1994; 福島ほか1995など)。また、冷温帯の常緑針葉樹林(森林的利用域の23.5%)はアカマツ二次林、スギ・ヒノキなどの植林が多く分布しており、混交樹林(森林的利用域全体の27.1%)は冷温帯の落葉広葉樹林が優先していた地域に、植林などの針葉樹林が混じって生育した森林景観であることをWI分布図(Fig.1)、相観植生図(Fig.3)および85年間継続して森林的利用であった地域における森林変遷の分布図(Fig.2)より把握した。また、西日本域ではシイ・カシなどの常緑広葉樹林(森林的利用域の18.5%)が温帯域および中間温帯域に分布していることを把握した。
西日本域の里山で普遍的に見られるアカマツ林は、森林に対する人為的干渉が極めて強かった地点に成立した森林であり、禿山とよばれる独特な森林景観を作り上げる(千葉1991)ため、自然植生の分布を把握することは困難であるが、東日本域の森林景観は、冷温帯の落葉広葉樹林(ブナ・ミズナラ群落)、寒帯・亜寒帯の常緑針葉樹林、混交樹林の自然植生を区分できる見通しが得られた。2001年から東京情報大学で受信しているTerra/MODISを利用して、2001年から2012年までの日本スケールの相観植生図を作成することにより、潜在的な自然植生および人為による変遷過程を持続的にモニタリングすることが可能となる。