日本と中国における竹林分布と利用の現状



兵庫県立大学大学院緑環境景観マネジメント研究科
藤原道郎 
2010(平成22年)8月8日から16日の日程で,浙江省における景観構造調査を実施した.調査結果自体は別報に譲るが,第二期で得られた知見と合わせて,今回は特に竹林に関する知見を報告することにする.  ご存知の通り日本においては竹林の拡大が問題となっているが,これは竹が利用されなくなったことに加え,竹林に隣接するブナ科を主体とする広葉樹二次林やアカマツを主体とする針葉樹二次林の管理放棄に起因すると考えられている.そこで,各地で分布状況,拡大しやすい環境などの研究がなされている.筆者らも兵庫県淡路島における竹林分布と拡大速度を現存植生図および空中写真により明らかにし,その結果,2000年において淡路島全体の3.2%を竹林が占めていることが明らかとなった(吉村ほか2010).しかし,拡大速度を明らかにしても,具体的な拡大防止対策を実施しなければ,竹林の拡大は防げない.そこで市民による竹林管理を推進するために,防除法の研修会を実施したり,モニタリングを行ったりしている.

図1.淡路島北部における竹林の分布(吉村ほか2010より改変).
 中国浙江省においては,主な竹として毛竹(Phyllostachys pubescens,モウソウチク)と雷竹(P. praecox)が認められたが,これらの竹林の分布は地形要因と住民のアクセスのしやすさに影響を受けていることが,本学術フロンティアによる一連の調査により明らかにされてきた(Fujihara et al. 2010).IKONOS画像のオブジェクトベース解析による植生図化から浙江省奉花市黄砂坑村においては19.6%が毛竹であることが明らかにされた.これは淡路島の竹林面積割合よりはるかに大きな値であった.しかし,竹林の拡大という問題意識はない.

図2.浙江省黄砂坑村における景観構造「(Fujihara et al.2010).

図3.浙江省黄砂坑村における景観構造(Fujihara et al.2010).
さらに今回の調査では浙江省四明山では山全体が竹林に覆われており,さらにいくつもの連なる山々がほぼ竹林に覆われている現状を目にすることができた.この面積は日本における竹林面積や面積比率などをはるかに超す値であると簡単に想像できる.

図4.山塊全体が竹林で覆われており,このような山塊が続いている.浙江省四明山近く.



図5.刈り取った竹を農民が運び,量り売りされ,トラックで輸送される.浙江省黄砂坑村.
中国においては現在も竹は重要な資源であり,農民が鉈で刈り倒し,山から肩に担いで車道まで運ぶ姿が見られる.車道には買付のトラックがきており,その場で量り売りされる.また,竹林の近くの集落では竹を材料とした様々な日用品が作られていた.  竹林内の竹には名前と数字が書かれており,伐採予定者が自分の名前を書き所有を宣言しており,数年ののち伐採し販売することになる.このように中国では竹を資源として利用しているために竹林の拡大は問題とはならない.竹林内も常緑低木や草本が繁茂し,日本の竹林と比較すると植物種数は多い.そのため生物多様性の視点からも日本ほど竹林拡大は問題とはならない可能性もある.しかし,そうはいっても,日本で見る竹林よりはるかに広い範囲で竹林が覆っており,地域における生態系のバランスや需要と供給のバランスが取れているのか大いに疑問である.

図6.伐採予定の竹には名前が書いてある.浙江省.
衛星画像からの植生図作成,現地調査による生物多様性の解明,地域住民の利用と再生産のバランス,竹林管理の方法など興味は尽きない.エネルギー消費が増加している中国にあってこそ,再生産可能なエネルギー資源としての価値を見出す必要があると思われる. 吉村享子・藤原道郎・美濃伸之. 2010. 現存植生図をもとにした淡路島における竹林の分布特性. ヒコビア15:401-406. Fujihara M, Hara K., Da L, Yang T, Qin X, Kamagata N, Zhao Y. 2010. Landscape and stand structures of secondary forests affected by human impact in a hilly rural are in Zhejiang Province, China-Influence of fuelwood collection-. DOI 10.1007/s11355-010-0141-0, Springer