日本の47都道府県の産業連関表に基づくエコロジカル・フットプリントのネットワーク分析



東京情報大学 情報ビジネス学科 吉澤 康介
東京情報大学 環境情報学科 山崎 和子 櫻井 尚子 藤原 丈史
東京情報大学 教養・教職・学芸員課程 柴 理子


1. はじめに

 2010年6月7日から6月12日の日程で、イタリアのシエナ近郊コッレ・ディ・ヴァル・デルザにおいて、FOOT PRINT FORUN 2010 が開催され 、各種セミナーや討論会など幅広い内容の議論が行われた。筆者らもアカデミック・カンファレンスにおいて標記の内容で発表を行った。 今回はその概要を紹介することとしたい。

2. エコロジカル・フットプリントと産業連関表

 エコロジカル・フットプリント(EF)は、人間が環境に与える負荷を、地球上の面積に換算して数値化したものである。 一般的には、「平均的な生物生産力を持つ1ヘクタール=グローバル・ヘクタール(gha)」によって表現される。  一方、我々の経済活動は金額によって表現される。また、経済活動に伴う取引によって、EFそのものもグローバルに移転されていると考えられる。  そこで、この両者を結び付けることが、排出権取引を始めとする実際の環境問題への取り組みにおいて重要となってくる。 例えば、「1万円分の電力は何ghaに相当するのか」といった計算が必要となるのである。  このような計算のために、産業連関表を利用することが提案されている。 我々の研究グループでは、日本の48都道府県の産業連関表を用いて、「どの産業の産出金額がどの産業のEFに依存しているか」を都道府県レベルで分析する手法を研究している。

3. ネットワーク分析

 日本の産業連関表を用いたEFの分析では、48都道府県×47セクタ=2256の都道府県別セクタが登場し、 各セクタ間の依存関係は2256×2256の行列(グラフ理論の用語を用いれば2256ノードの完全グラフ)で表現される。  単なる数値計算であれば、これで構わないのであるが、これを図示したり、「主要な部分」を抜き出したりするためには、何らかの工夫が必要である。  そこで筆者らは、セクタ間の依存関係を表す行列から、ある一定のしきい値以上のデータだけを抽出し、 これによって得られた「EF依存関係の主要な部分のネットワーク」がどのような性質を示すのか、分析することを試みた。  すると興味深いことに、適切なしきい値を選べば、複雑ネットワークの特徴の一つであるスケールフリー性を表すべき乗則が現れることを筆者らは見出した。(図1)  スモールワールド性、クラスタ係数などに関しても計算を試みており、現在、これらの値の評価分析を試みているところである。(図2)

4. ネットワークの可視化

 しきい値を設けてEF依存関係の「主要な部分」だけを抜き出すことのもう一つのメリットは、「ネットワークの可視化」が行いやすくなる事である。  図3は、可視化例の一つである。ここでは、日本全体が一つの大きなネットワークとして表現されている。 また、関連の強いノードがクラスタを形成していることがわかる。  いずれも、日本の産業構造をある程度知る者からすれば、特に目新しさはないかもしれないが、様々な分野、知識レベルの者が混在するような議論の場においては、 このような「視覚化」の役割は小さくないものと考える。

5. おわりに

 EFの研究は、それ自体がまだ若い分野であり、同時に地球温暖化対策や排出権取引といった緊急にしてグローバル経済に大きく影響を与える問題とも大きく関連している。 筆者らの研究グループでは、今回の発表の内容をベースに、より有意義な分析・評価や、ネットワークの可視化などを試みる予定である。
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