北東アジア学会に参加して



環境・経済ネットワークグループ 東京情報大学 柴 理子

2009年11月21~22日、新潟県立大学で開催された北東アジア学会第15回学術研究大会で、本プロジェクトへの参加を通して得た研究成果を発表しました。

北東アジア学会は旧称を環日本海学会といい、中国人や韓国人やロシア人の会員が約半数を占める小規模ながら国際色豊かな学会です。今回の大会共通テーマは「北東アジアの危機と持続的発展―環境・開発・人権」で、まさに本プロジェクトのテーマにピッタリ。筆者は「ポーランドにおける『持続可能な発展』への試み~生活者の視点からの地域ネットワーク形成」というテーマで報告に臨みました。

アジア東岸域を対象とするプロジェクトでなぜポーランド?と唐突に思われるかもしれませんが、ポーランドは日本から見ると実はロシアのすぐ(?)向こう側にある「隣の隣の国」で、バルト海に面しています。政治・経済も社会・文化も多様なバルト海岸域は、アジア東岸域にとって恰好の比較対象になり得るので、北東アジア学会にも、そのような関心から参加しているロシア・東欧を専門とする会員がいます(筆者もその一人)。今回も、分科会にロシア・東欧関係のセッションが設けられました。

第2次世界大戦後に社会主義国となったポーランドは、1989年には社会主義体制と訣別し、直後には経済の急激な落ち込みや社会的混乱を経験しました。しかし、1992年にプラス成長に転じた後はほぼ一貫して5%前後の高いGDP成長率を維持し、他のヨーロッパ諸国が2008年秋の金融危機のあおりを受けて軒並みマイナス成長に転じるなかで、2009年も唯一プラス成長が見込まれています。こうした高度経済成長は、他方で環境に大きな負荷をかけることになります。またエネルギー面でも、90%以上を自国産の豊富な石炭に依存しており、再生可能なエネルギーへの転換が喫緊の課題にもなっています。こうしたポーランドの現状は、中国をはじめとする経済成長真っ只中のアジア諸国の姿と重なります。

しかし、「持続可能な発展」というグローバルな課題にポーランドがどう向き合っているのかは、日本ではあまり知られていません。最近はポーランドの環境省や民間のシンクタンクがウェブページで多くの資料やデータを公開していますが、英語はダイジェスト版であることが多く、詳細はポーランド語の資料を読まないとわからないことも一因と思われます。実は、ポーランドは「持続可能な発展」を基本戦略として憲法に盛り込んでいる数少ない国の一つで、この憲法をベースに「ポーランド2025」という長期戦略がすでに策定されています。ポーランドは2004年5月に念願のEU加盟を果たしましたが、これによってEUの「持続可能な発展戦略(EU SDS)」という枠組みと制約とをはめられることになりました。そこで、今回の報告ではまず、「持続可能な発展」に関する国レベルの議論と政策、さらにEUの方針との関係について概観しました。

    ただし、国家が旗を振っているだけでは、社会主義時代の環境政策等のあり方と本質的には変わらないことになります。筆者は「持続可能な発展」に対する一般市民の意識と行動を調べていますが、「持続可能な発展」をキーワードとして見てみると、市民が生活の改善や生活レベルの問題解決のためにNGO、企業、職業組合など多様なフォーラムやパートナーシップを形成し、時には地方自治体といった既存の単位を越えた枠組みを生み出しつつあることがわかってきました。今回の報告では時間の関係でその一部の紹介、可能性と課題の検討にとどまりましたが、フロアからの反響はこの部分がいちばん大きかったように思います。

今後もさらに調査を進め、本プロジェクトの活動にヨーロッパという「他者の視点」から話題を提供していければと考えています。