衛星画像の実時間提供



東京情報大学 浅沼市男

 アジア東岸域の環境圏とそれに依存する経済・社会圏の持続的発展のための総合研究」の基幹となる情報収集手段の一つとして、従来からの東京情報大学(千葉市)の衛星観測データ受信のための地上局に加え、東京農業大学オホーツクキャンパス(網走市)と東京農業大学宮古亜熱帯農場(宮古島市)に、衛星観測データ受信のための地上局を新たに設置した。設置運用にあたり最も重要な検討事項は、衛星観測データを伝送し、リモートによる地上局の運用を可能とするための高速通信回線の確保である。衛星データ受信と処理のために、新たに人的資源を確保することは困難であり、東京情報大学における一極の集中管理とデータ処理が必要であった。

 朝日新聞(2009年8月15日)により、『総務省が推進する公設民営方式により、2010年中にもブロードバンド(高速大容量通信)の使えない地域が国内から消える見通しとなった。』と報道された。大容量のデータ伝送をともなう国内のインターネット・ユーザにとっては朗報である。オホーツクキャンパスでは、キャンパス入口付近から光ファイバの敷設導入が可能であり、100Mbps(1秒間に100メガビット)の伝送速度を実現できた。しかし、市の中心部から約10km離れた宮古亜熱帯農場付近では、インターネット・ユーザがほとんど居住しないことから、宮古島の中心部において利用可能な光ファイバによる高速大容量通信の恩恵を受けることができず、電話会社の提供する在来の電話回線による非対称ディジタル加入者線(ADSL)、あるいは、ケーブルテレビ会社の提供するインターネット・サービスの利用に制限される。いずれの利用可能な最も高速のサービスでも、データを発信する上りの回線において1Mbpsがベストエフォート(最も条件が良い時)の伝送速度である。30年前のデータ伝送の黎明期と比較すると隔世の感ではあるが、100~1000Mbpsを家庭においても利用できる現代となっては、また、新聞報道に言われる高速大容量通信のイメージからすると、旧態依然の通信事情である。後日判明したことであるが、新聞記事のブロードバンドはADSLをも含むことから、総務省の誇大発表や新聞記事に誤りがあるわけではない。”超”高速大容量通信に慣れてきた都市部の人間の誤った期待であり、また、都市部と周辺部の情報格差は開いたままであり、改めて現代の情報僻地が作られると言う事実を再認識させられる。

 地上局上空を1日に8~12パス(回)ほど衛星が通過し、地上局のパラボラアンテナにより追跡する。1パスは数分から15分間であり、衛星から地上局までの伝送速度は、約10Mbpsである。日中で、1000MB/パス(1パス当たり1000メガバイト)程度×3~4回、夜間で300MB/パス程度×3~4回の大容量のデータが発生する。オホーツクキャンパスと宮古亜熱帯農場の二つの地上局において受信した全データを、千葉の東京情報大学まで伝送しており、その所要時間を見ると、オホーツクキャンパスでは1パス当たり衛星からの伝送時間の1/10倍の時間(1.5分程度)、宮古亜熱帯農場では10倍の時間(150分程度=2時間30分)を要する。特に、宮古亜熱帯農場からのデータ伝送は、データ伝送が中断しないことを祈りながらの毎日である。

 このような通信事情のもと、衛星飛来時に地上局において受信したデータを受信と同時に配信するサイマルキャスト・サービス(同時伝送サービス)の機能の整備を進めてきた。このサイマルキャスト・サービスは、米国航空宇宙局(NASA)が開発したプログラムであり、衛星観測データを世界中のどこにいても、インターネットを利用し、衛星飛来時に同時観察を実現したプログラムである。宮古亜熱帯農場のように通信回線のデータ伝送能力の低い場合に、また、地上局のサイマルキャスト・サービスを提供するサーバーに複数のユーザが接続した場合、複数ユーザへの同時伝送が機能しない名ばかりのサイマルキャスト・サービスとなってしまう。宮古亜熱帯農場からの衛星受信データのサイマルキャスト・サービスは、東アジア地域において北半球最南端の地上局からの情報発信サービスであり、全球のリアルタイム観察、あるいは台風飛来時の同時観察など、各種利用にあたり不可欠な地上局からのサービスである。東京情報大学とNASAにおいて技術的な協議をしたところ、宮古亜熱帯農場からのデータを千葉の東京情報大学を経由し、世界中のユーザへ衛星飛来と同時に衛星観測データを提供するダウンストリーム・サイマルキャスト・サーバー(下段同時伝送サーバー)の導入の提案があった。サイマルキャスト・サービスの詳細設定を開示しないことを条件に、ダウンストリーム・ダウンストリーム・サーバーについてNASAからの技術供与を受けた。東京情報大学のダウンストリーム・サイマルキャスト・サーバーから、東京情報大学の地上局、東京農業大学オホーツクキャンパスの地上局、東京農業大学宮古亜熱帯農場の地上局の受信データを、世界中のどこにいてもインターネットを経由して衛星飛来と同時に観察可能となった。ただし、宮古亜熱帯農場からのデータ伝送経路は細いままであるので、サイマルキャスト・サービスにおいて若干の遅延をともなう。今後の通信回線サービスの改善によりデータ利用の高速化を期待したいところである。

 サイマルキャスト・サービスを利用するためには、NASAからサイマルキャスト・ビューアのダウンロード(無料)と、東京情報大学に設置したサイマルキャスト・サーバーの指定が必要である。利用のための詳細情報をhttp://e-asia2.tuis.ac.jpにおいて公開している。